野々下「始まりました、トライアル2013座談会。オーディションを経て8月からやってたよね。今現在1月、本番前もう2ヶ月切りましたけども、どうですか本田さん」

本田 「はい、そうですね、まだいつもと比べると何をするのかが全くわからない状態ではありますね、普段と逆の作り方をしているので。シーンを作ってそれを構成するのではなく、元々ある言葉から普通の戯曲カリギュラを使って、それを構成演劇化するというルートを辿ろうとしているわけなんですけど。まだ手探り状態ですね、それが楽しいんですけど。僕は正直今までより楽しんで稽古していますね」

野々下「ああ、そう。」

飯沼 「今までは自分達の経験とか実際にあったこととかを題材にしてきたから、それからは全く離れられるよね。多分今回の芝居っていうのは。全く新しいものはできると思うし、ただ非情に危ういとも思うし。難しい。」

野々下「普通のお芝居に近づいちゃうからね。作り方の手順としては同じになっちゃうんだけど。」

飯沼 「どうですか?豪君。初舞台は?」

豪  「そうですね、まず舞台っていうのが全く分からない状態でシアラボに入って、大体台本通りにやるんだろうな舞台はっていう感じで入ったんです。そして透明な旗を見て、なんだこれはと思ったら構成演劇っていうのがあるのを知って、こういう作り方もあるんだ、凄いところ入ったなと思いました。今回は台本で進めていくんですけど、僕の初舞台はシアラボの歴史の中で初の試みなので、凄いうれしい気持ちも一杯ですけども不安な気持ちも一杯でございます。なので僕は自分のやりたいことを精一杯やって凄い良い舞台に仕上げたいなと思っております。はい。よろしくお願いします。」

全員笑い

豪   「これは気合いが籠もっています。」

豪   「台本使わないんだと思った時びっくりしました。」

本田  「聞いてて思ったんだけど。台本使うじゃん、普通に。それって危ない面もあると思うんですよ。例えばシェイクスピアを上演するじゃん。それ上演するより文章の方が価値高いんじゃないってよく思う。シェイクスピアを何度も読んで言葉を味わった方がシェイクスピアの可能性を自分で切り開いていけるんじゃないかってことをよく思う。」

俊平  「想像力の方がってことですよね。」

本田  「そうそうそう。上演しちゃうことで余計想像できないというか。」

俊平  「でもそれ俺トライアルに参加して初めて思いました。テキスト選びの為に、稽古で色んな台本を読んでいく段階のとき、澤野さんが脳が死ぬ感覚を久しぶりに思い出したっていう説明を聞いて。衝撃を受けたというか妙に納得したというか。ああ、たしかに脳の三分の二は死んでたかもしれないなっていうことに気づかされたってのはありますね。台本に頼っちゃってという。」

本田  「そこがトライアルって感じがする。こちら側の演劇からの文学に対するトライ、戯曲に対するトライという気がする。普通だったら戯曲が、作家さんの方がトライしてくると思う。そっちの方が先行してると思う。発語できないようなことを投げかけてきたり、不条理演劇が出てきたときとかもそうだと思うんだけども。それに対して逆にこっちから仕掛けていくっていう感じがして、玉砕する可能性も恐いなっていう感じがします。」

大嘉  「自分は台本を使った芝居をやったことがないので、いつも野々下さんの授業のフリーエチュードとは全く違った感じで。逆に自分が出しづらい感じというか、文字に押される感じというかその道しか辿れないという感じで、自分の中でその枠からどれだけずらして進んでいけるのかという作業が、苦しくもあり楽しい感じで。たくさん引き出しを持てると、いろんな表現が増えて良い俳優になれるのではと思いました。台本の役作りをきちんと行えるようになって更に飛躍させるというか、もっと濃いキャラクターの位置づけを今回できればいいなと思います、はい。」

俊平  「あとシアラボ流のどこで遊んでいいかという、俳優の遊び場所が分からなかったんですけど、最近ちょっとずつここが遊び場所なのかなというのが見えてきて、そこをできるようになるともう一歩先が見えてくるのかなと思いました。あとここに参加する前までは自分という物を強く出していたんですけど、役を作り込むことを深くはしてこなかったので、今後はそこを意識していきたいと思います。」

大嘉  「あと仙台シアターラボさんのトライアルに参加して思ったのは音響・照明に関してのネタ出しを行うっていうのが凄い新鮮でした。そこから役者が介入していくのがとてもクリエイティビティ溢れる現場だなと思い、この経験を生かしてどの現場にいっても意見を言えるようになりたいと思いました。」

俊平  「自分最初はみんながみんな山の手メソッドの鬼みたいな人の集まりだと思ったんですけど、入ってみたら多種多様な学び方をした人たちがその良いところを集結させようとしている集団なんだなと思いました。おれが思っていたスパルタな物とは違った、いろんな味、楽しみ方ができる集団なんだなと思いました。」

野々下 「みんな出自は違うからね。」

俊平  「同系統でもないっていうことに驚きました。真逆の所から集まっているなあと思いました。それが面白くなっているんだなあと思いました。」

豪   「シアラボのイメージってそんなに堅いの?」

俊平  「堅いと言うよりは芝居が洗練されているから、その行程も相当洗練されていて、そのイメージがスパルタだったり、新人募集はしてないとか思いました。新しく入るならば、門を叩いて俺の実力がある!入れてくれ!ぐらいの気持ちがないと入れないじゃないかという勝手な概念はありました。」

本田  「募集してるよ~メンバー。」

本田  「バックボーンに留まらず最近思うのは、照明さんや音響さんとかと全然関係ないアーティストの人が参加してくれると凄い楽しいなと思います。」

野々下 「画家とかね。」

本田  「結構ポストドラマとかで活躍されてる人だと美術とか彫刻の人とかが演出になってる人とかいるので。」

野々下 「子供と動物はやりたいんだよね。」

大嘉  「動物って例えば?」

本田  「ヤン・ファーブルは蝶を燃やしてましたよ。」

野々下 「難しいけどやっぱりほ乳類がいいね。でっかいオットセイとか、でっかい像アザラシがいるとか。それをカリギュラだと思ってるとか。」

一同笑い

本田  「サーカスみたいな感じですね。」

豪   「沼さん、何かないですか?」

飯沼  「本当に先が見えないね、全然。どうなるのか。」

野々下 「ゴールが設定しにくいね。ネタだし・構成って切っていかないとね。後は今まで出た構成要素をシーンごとにはめこんでいって使えるところを使っていく感じにはなるとは思うんだけど。それだけだとずいぶんと長いシーンだからね。いつも二、三分のシーンがバッバッバッバってあるからね。どうやってインパクトを出すかだよね。」

本田  「下手したらお客さんが寝るっていう危険性を帯びている。」

野々下 「やっぱり古典とかポストドラマって寝る可能性が高いからね。」

豪   「展開が無いって事ですか?」

野々下 「どっかでハイコンテクストになり過ぎてて、お客さんが解釈を諦めるの。今創ってる作品も、仙台シアターラボ特有のルールがあるじゃない、こう重心を上げておいてとか。そのルール知らない人は、どういう意味なのかなって見るじゃない。うちらは共通認識が凄い高い集団になってるのね、だからお客さんとは凄い距離があるの。お客さんはそれはなんでやってるのって見るじゃない、うちらにとってはそれはルールなんだけど。お客さんは幽霊になるための手段として見るじゃない。今やってる作業ってかなりハイコンテクストな方向に行ってるから。今までよりも重ね塗りしていってるからね。ネタ出しの段階で重ね塗りしていってるから。いつもはネタ出しの段階では思いつきだからね。」

野々下 「例えば、歴史という生き物のペンライトを使ったシーンだと、ペンライト回したら面白いじゃんから始まるのね。そこにハイコンテクストはないからね。ほぼお客さんの感動と同じ状態から始まってるから、これはお客さん感動するだろうと思ってやるんだけど。それがないよね。ぶわーっと知で攻めていってるから、だからデバイジングは結構重要だったと思うんだけどね。最初の感覚、もうあれ無くなってるよね。あれから大分塗り固めていってるからね。今日一日だけでもだいぶ塗り固めたじゃない。初めてお客さんが読んだカリギュラと俺達が思ってるカリギュラって別物になってるし。それも凄い距離がある。それをどう説明していこうかっていうことだね。」

野々下 「豪はどうしたい?」

豪   「今回シアラボに初出演なんですけども。お客さんがまず見て家に帰ってからも思い出してくれる様なインパクトの強い、お客さんの印象に残る舞台にしたいです。」

野々下 「音響として初めて関わります、藤田君どうですか?」

藤田  「普通に台本あるとシステム周りとか縛られるんですけど、スピーカー置ける場所とか流せる曲とか。演出の意向を無視してスピーカーとかは置けないので。今回はスピーカー十六発置いたら面白いんじゃないかとか。ちょっと後で舞台監督の澤野さんに相談しようと思ったんですけど。」

藤田  「飯沼さんのアイディアでスピーカーから色んな声流すっていうのも、ミキサー二台使えばいけるんじゃないかと思いまして。」

一同  「へ~。」

飯沼  「前もやったけど客席の下からセゾニアの声が聞こえるとかね。前やりましたよね?」

野々下 「ん~まあね。」

飯沼  「ただ声が聞こえてくるのはなかった気がする。今回裏が写真展やるからそこを使ってできるのかな~って気はする。」

野々下 「あと刑務所のアナウンスみたいなやつ仕込むとかさ。」

本田  「いわゆる劇場のスピーカーじゃなくても良いのかも、ブルートゥースとか使ってラジオからセゾニアの声を流すとか。」

一同  「あ~」

野々下 「ラジオはなんかイメージ近いなあ。」

藤田  「あまり音質は良くないけど、死んでいる人の所から違う人の声が流れるとかもできる。」

野々下 「何かちょっと音質の悪いレコードをユーチューブにアップした時とかそんな感じの音流れるよね。美空ひばりのやつとかさ、そういう感じだよね。」

本田  「朝輪で話ありましたけど、音響さんとか照明さんから提案して作ってもらうシーンとか是非やってもらいたい。」

野々下 「音響と照明だけで、または役者を立たせておくとか役者が一つ動きをするとかだけで、何かシーンを提案してもらえればいいなと思って。一応うちらが抽象的なシーンを作るときってそんなに変わらないのね。例えば傘を使ってみんなで黄泉の国へ歩いて行くっていうショートシーンを作るっていうのも傘ありきなんだよ。だから藤田君の曲ありきとか山澤君の照明ありきとかそういうのを構成要素なんで被せられるのね。今ルパムとかショートシーンとか作って被せようとしてるみたいな感じで。レイヤーみたいな感じで今回歌詞のある曲にチャレンジしたのもそれで、削り取った一個太い物として大量の情報を渡すんじゃなくて細々とした物を被せまくるという情報量のアップの仕方ができないかな~っていう意図なんだけど。」

野々下 「俊平どうしたい?」

俊平  「僕はまず台本芝居をやると思わなかったので。」

野々下 「そうだよね。(笑)」

俊平  「すごい衝撃は受けてます。それと同時にこんな重要なトライアルに参加できたのは凄い嬉しいです。そして初めてのシアラボでも難しいのに更に弩級の難しさを感じつつも、自分の色をガツンと出したいなと思ってますね。」

野々下 「大嘉は?」

大嘉  「今回はとにかく目立ちたいなとそのエネルギーで引っ張っていくっていうのは言い過ぎかもしれないですけど、エネルギーの重ね合いみたいな感じで大きい一つのエネルギーを持った舞台になればいいなと思います。」

野々下 「同年代3人いるしね。」

野々下 「沼は。」

飯沼  「そうですね。いままでよりも今回台本を使う事で僕はやりやすくなった。台本から得るものってたくさんあって、例えば言葉の響きだけであったとしても。今までにないシアラボの芝居を作りたいなと。あとシアラボの強さって声だと思っててしっかりとした発声でこういう事が出来てるとこってそんなにないと思うんですよ。だからみんなの声っていうのを大事にしていったら面白いんじゃないかと思います。以上です。」

本田  「僕は声には滅茶苦茶コンプレックスがあるのでどうしたものかな~と。」

一同笑い

本田  「そうですね、僕も他者の言葉を使うって事でやりやすさ、考えやすさを感じていて。ちょっと別の話ですけど言葉が宿るといか残るといいなと凄く思います。カミュから翻訳者に渡って翻訳者から僕たちが受けた言葉がお客さんの所に残って、30年40年経った時もあの時のこの言葉がっていう風に残ったらやった価値があるなと思います。あとプロセスとしてどんな作品も完成する事はないと思うんですよ。結局作品自体は終わるんですけど、そのプロセスを見せられてプロセスの先にある希望なのか光のような物を感じてお客さんは感動して帰っていくのかなと思うので。尚更トライアルっていうプロセスとして次があるところなので、お客さんに見てもらってその先のシアラボみたいな。今、シアラボメソッドの黎明期なのかなと。初めが一番楽しいし、わくわく感みたいな。シアラボも変わってきたな、こういうこともするんだと思っていただけたら良いなと思います。それで来年の夏の公演も見に来ていただければなと思います。」

野々下 「今回、いつもやってる事よりも明確に日常に絶対いない人を舞台上に上げるっていう事と、日常で絶対見れないようなヴィジュアルを舞台上に作って尚かつお客さんの共感を得るってことをやりたいと思ってるので。そこを自分達の言葉や発想だけじゃなく、台本の力を借りてやれるっていういことはいつもよりは心強い武器を持った感じはするよね。まあそれと距離を取りつつ台本で自分を斬らないように気をつけつつ。台本との対決っていうこともあるからね。使わせてもらうって感じではないしね。あれなんていうの、ラオウが乗ってるやつ。」

一同  「黒王号!」

野々下 「黒王は黒王で凄いやつじゃん、認め合ってて。その感じが出ればいいなと。」

俊平  「認められない時もあるからなあ。」

野々下 「認められない時は潰されるもんね、黒王に。」

一同笑い

野々下 「じゃあ終わりましょう、本日はこれにてお開き。お疲れ様でした。」

一同  「お疲れ様でした。」